工藤淳夫

老化とプログラミング

この記事では生活習慣や老化(aging)は遺伝子を変えること、逆にその遺伝子の状態は変えられることについて医学論文とともに語ってみたいと思います。

 

ゲノムと遺伝子

みなさんはゲノムとか遺伝子という言葉を知っているでしょう。簡単に言うとゲノムはその細胞が持つすべてのDNAチェーンのことを言い、遺伝子はDNAの中でタンパク質に変わる(意味のある)配列をさし、ヒトで約2万5000個あるとされています。

これら2万5000個の遺伝子がすべて働いているわけではなくて、細胞の種類や老化度によって働いている遺伝子が異なります。例えば受精卵の遺伝子のON/OFF状態とコラーゲン繊維を作る線維芽細胞の遺伝子状態は全く異なります。この遺伝子の状態を調べる学問領域を『エピジェネティクス』、その細胞のDNA状態をさすときには『エピゲノム』と言います。つまり、細胞の種類が200あったら200通りのエピゲノムがあるわけです。

習慣は遺伝子の状態を変える

生活習慣の違いによって一卵性双生児でも大人になるにつれ、なぜ顔の形が変わったりシワが増えたり違いが出るのでしょうか?

一卵性双生児はDNA(つまりゲノム)が全く同一なので理論上は全く同じ顔かたち、皮膚や髪の毛の状態になるはずです。ところが時間が年単位で経過していくにつれて顔や皮膚、成人病の有無など違う特徴を示してきます。これは生まれた時は全く同じDNAの状態を持っていたのですが、生活習慣でDNAの状態が変わってしまったからです。

例えば食事の習慣によって遺伝子の状態が変化します[1]し、親御さんの愛情の注ぎかたでも脳の海馬のDNAの状態が異なります[2]し、日光紫外線を浴び続けるようなスポーツや仕事をしていれば皮膚にシワが増えるような遺伝子状態になる[3]わけです。

これらの後天的な遺伝子状態の変化は正常な状態へと改善することができると示唆されている[2]ので早期改善を図ることが大切です。

矯正歯科で例えてみると、歯に力をかけるとその方向の歯槽骨を溶かす『破骨細胞』が幹細胞から分化して増えてくる[6]ため歯の移動が可能なのです。力を止めると徐々に破骨細胞の分化が止まるため安定してきます。この単純な歯の移動でDNAに起こっているのがエピジェネティックな遺伝子の状態変化[5]です。つまり、力を習慣的にかけ続けると1,2か月かけて骨を溶かす細胞が増えてくるよう遺伝子の状態を改めてプログラミングします。その結果、骨を溶かす破骨細胞が増えてくるため目に見えて歯が移動するのです。

遺伝子の状態とはなにか?

これまで遺伝子の状態が違うと老化度や生活習慣病のリスクが変わると説明してきましたが、遺伝子の状態とはなんでしょう?

結論から言うと、遺伝子の状態とはどの遺伝子がどのくらい働いているのかということです。先ほども述べたようにヒトの遺伝子は決まっていますのでその遺伝子の使い方次第で年齢より若くあったり、年齢より老化することもあるのです。

この遺伝子の状態変化は先ほどのように力や食事などの生活習慣のような長い期間をかけて徐々に起こり、遺伝子のON/OFFの状態が変わっていきます。

一般に老化した細胞や癌細胞は異常な遺伝子のON/OFF状態の細胞が増えるため、自分がどのような細胞だったのかを次第に『忘れていく』と例えられます。

ゲノムのプログラミング

この記事のタイトルにもあるプログラミングに関してですが、DNAは設計図ですのでそれをいじることでプログラミングが可能なのです。一番有名ないじくり方は『メチル化』と呼ばれて遺伝子からタンパク質を作らせない(OFF)ようにすることです。DNAのメチル化のほかにもDNAを巻き取っている『ヒストン』のメチル化やアセチル化、リン酸化がありますが、老化とともにこれらの修飾の状態が細胞ごとに変化してくるのです。

細胞が受精卵から皮膚や骨の細胞に分化していくとその細胞の遺伝子発現状態が変わることは前に矯正移動の例で説明しましたが、細胞の分化とは遺伝子の状態をプログラミングすることで分化した細胞になるということです。最近まで、分化してしまった細胞はもとの遺伝子状態に戻れないとされていましたが、iPS細胞で示されたように山中4因子を分化した細胞(例えば歯茎の細胞)に入れてやることで受精卵のような遺伝子状態に初期化できてしまいました。

このようにエピゲノムを操作する技術が発展していくと若かった時の細胞の状態にもどせるような薬もできるかもしれませんね。薬の開発は安全性の確認に非常に時間がかかるためまだ先のことだと思いますが私はこのエピジェネティクスと老化の分野も関心があります。

まとめ

  • 生活習慣次第で遺伝子の状態が変わる。
  • その遺伝子の状態は変えることができる。
  • 顔の骨の変化も遺伝子の状態を変えて起こっている。
  • ゲノムを自在にプログラミングし臨床応用できる時代が来るだろう。

 

 

参考文献:

  1. Nutritional influences on epigenetics and age-related disease. Park LK et al. Proc Nutr Soc. 2012 Feb;71(1):75-83. doi: 10.1017/S0029665111003302. Epub 2011 Nov 4.
  2. Epigenetic programming by maternal behavior. Weaver IC et al. Nat Neurosci. 2004 Aug;7(8):847-54. Epub 2004 Jun 27.
  3. UV-induced DNA methyltransferase 1 promotes hypermethylation of tissue inhibitor of metalloproteinase 2 in the human skin. Kim HY et al. J Dermatol Sci. 2018 Mar 15. pii: S0923-1811(18)30134-8. doi: 10.1016/j.jdermsci.2018.03.009. [Epub ahead of print]
  4. The role of DNA methylation in ageing and cancer. Morgan AE Proc Nutr Soc. 2018 Apr 30:1-11. doi: 10.1017/S0029665118000150. [Epub ahead of print]
  5. Epigenetic regulation of osteoclast differentiation: possible involvement of Jmjd3 in the histone demethylation of Nfatc1. Yasui T et al. J Bone Miner Res. 2011 Nov;26(11):2665-71. doi: 10.1002/jbmr.464.
  6. 矯正歯科治療において歯の移動の新たな鍵となる細胞を同定―矯正歯科治療の標的細胞が明らかに― 国立大学法人東京医科歯科大学 
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